再生可能エネルギーによる分散電源やEVの充電スタンドなど従来とは異なる電源・負荷やエネルギーの流れが増加する中で、それらによるエネルギー授受の仕組みや電力フローの急峻な変化が電力システムに与える影響が無視できなくなってきています。これは、電力ネットワークの中では常に需給が等しくなるという制約により、接続された機器が互いに干渉し、好き勝手にエネルギーのやりとりを行うと、ネットワーク全体の電力フローの制御が難しくなっているとも言えます。そこで、個々の送り手と受け手が互いにP2P (Peer to Peer) の形でミリ秒のスケールで協調することにより、電力フローを制御し、安定したエネルギー伝送を実現する方法について研究を行っています。
たとえば小容量の複数電源から成るネットワークを考え、これを双方向AC/DC変換モジュールと蓄電池を用いて構成し、やりとりする電力フローの情報を送り手と受け手のモジュールが無線通信により共有した上で、同時性を保ってエネルギー伝送を行うことを考えます。このようなシステムを実現する上で重要となるのが、物理的なエネルギーを扱うシステムと情報通信システムの協調設計ですが、通信に伴う遅延をモジュール同士が互いに把握することにより、ロバストにミリ秒のスケールで同時性を保ったエネルギー伝送を実現しています。
簡単な例として左下図のような複数電源から成る小規模な孤立ネットワークを考えましょう。EVからの出力は最大200W、パワーコンディショナシステム(PCS)の出力は最大100Wとして、これらを用いて300Wの冷蔵庫を動作させる状況を、AC/DC変換モジュールと蓄電池で模擬します。どちらの電源でも1台だけでは冷蔵庫を動作させられないという状況です。このとき、EVと冷蔵庫のタイミングがずれるとPCSの容量を超え、ネットワークがダウンすることになります。実際に同時に動作させた場合の通信と電力のやりとりを右下図に示します。上側が通信のやりとり、下側が電力のやりとりで、正弦波は交流の電圧波形を示します。このようなモジュールを用いてシステムを構成することにより、ネットワークの分割・統合、分散した蓄電池を用いた仮想蓄電池、ネットワークの協調診断など、サイバーシステムと物理システムの協調による、環境に応じた自由度の高いネットワークが実現できます。
一方で、このようなネットワークは、パワーエレクトロニクスのスイッチング、低電圧動作の制御回路、低消費電力の無線通信などを含むため、環境によらず安定に動作するロバストなシステムを構成するためには、これらの干渉も考慮したモデル化・設計手法の確立が重要な課題となっており、このような視点でも研究を進めています。