集積回路が発明されてからその発展は著しいものであり,現在の社会発展の原動力となっている. その中で,CMOSによるディジタル集積回路技術はムーアの法則(物理世界の法則ではないが)に従って集積度が上がってきている. ムーアの法則を可能にする技術はMOSトランジスタの微細化であり,微細化の恩恵を受けてディジタル回路が進歩してきた. しかし,残念ながらアナログ回路は微細化の恩恵を受けるばかりか,微細化はアナログ回路にとって最大の敵となる. それはトランジスタが微細化すればするほど,同じ寸法の2つのトランジスタの特性が大きくずれてしまうからである. つまり,トランジスタ間の特性ばらつきが大きくなり,アナログ回路における正しい動作の保証ができなくなる. また,微細トランジスタを使ったアナログ回路設計においてトランジスタのゲインが低いなど問題点が多い.
ディジタル回路を微細プロセスで製造した1つのチップにまとめ,アナログ回路を古いプロセスで製造した別のチップにまとめ, 基板上にチップ同士を繋ぐという対策が考えられる. しかし,これではチップ間のデータ移動が発生し,大きなエネルギーが要する. 実は,情報を処理するよりも移動するときに多くのエネルギーが消費される. 従って,低消費エネルギー化のポイントは次の2つである. 1つ目は,データを不要に移動しない.2つ目は移動する場合はなるべく近くに. これらから明らかなのは,消費エネルギーの大幅な削減にはアナログ回路とディジタル回路を同チップに集積化することである.
アナログ回路とディジタル回路を同チップに混合させるには,現在はやはりアナログ回路に使うトランジスタの面積を何千倍も大きくするのが主流である. 面積は容量に直結し,容量はエネルギーロスに直結する. そこで,アナログ回路設計において従来の考え方では低消費エネルギー化の実現に無理があり, 本研究ではこれまでにない新たな理論の元でアナログ回路の設計方法の確立を目標とする. 具体的には微細トランジスタ間に発生する特性ばらつきを逆に利用する方式により低消費エネルギーのセンサ回路を実現する. また,センサ回路だけでなく,アナログーディジタル変換回路など集積システムに必要な各種回路の新たな設計技術を検討する. CMOS集積回路ではトランジスタの数は無限大まで使えるため,ディジタル回路がアナログ回路を助け,アナログ回路がディジタル回路を助けるといった お互いを助け合うような方式を開発し,より低消費エネルギーで低コストの集積回路を世界に発信していく.