京都大学 大学院工学研究科 電気工学専攻 電磁工学講座 電磁回路工学分野のページです。

「電磁回路工学」 研究分野の概要

「電磁回路工学」は、電気・電子・情報通信システムを支える電気回路・電子回路・電磁回路の「統合設計」とその基礎理論である「電磁回路理論」を扱う分野です。 その研究分野は、電力ネットワークのような大きなシステムから、集積回路などのナノスケールのものまで多岐にわたり、デバイスモデルや新しい材料(メタマテリアル)の理論および応用研究も視野に入れています。

「電磁回路工学」が扱う「統合設計」の例を挙げましょう。自動車には多くのエレクトロニクス機器が搭載されています。走行のためのエンジン制御や衝突時のエアバッグ制御、プリクラッシュ・セーフティ・システムや、クルーズコントロール、さらにはエアコンやオーディオ・システムなど、数100のユニットやモジュールが使用されています。たくさんのセンサーや制御回路が安全や快適のために働いています。電気自動車(Electric Vihecle)やハイブリッド・カーになれば、その数はさらに増えます。従来は、個々の機器がその性能を発揮するように設計することが主体でしたが、多くの機器が狭い空間に搭載されると、そのシステム間の相互干渉やノイズが動作環境を悪化させ、それそれの機器本来の性能が発揮されなくなります。機器が相互接続され近接配置されるなかで、システム全体の機能を保持するシステム完全性(System Integrity)を保証した機器設計が要求されます。その、システム統合設計を担う回路設計論を扱うのが、電磁回路工学です。

電気電子回路の動作の高速化・高機能化に伴い、従来は問題にならなかった高周波電磁雑音が発生し、回路接続の配線だけではなく、空間を隔てて電磁的に結合し、他の機器に影響を与えます。この電磁的結合や高周波回路特性も含めて回路システムの設計を行う、それが電磁回路工学です。その守備範囲は、エレクトロニクスの根幹を担うIC/LSIやセンサーなどを含む半導体素子から、これを実装するためのパッケージ、回路基板、モジュール、そしてそれらを組み合わせた情報通信(ICT: Information and Communication Technology)機器や電力機器、自動車など、多岐にわたります。それそれの回路やユニットのモデリングと解析・設計、そしてシステムの制御までを扱います。

無線通信システムについても、電波を利用する多くの機器が同じ空間で同時に運用され、通信波の干渉だけではなく、回路動作に伴い発生する不要電磁波、たとえばパソコンなどのディジタル機器のクロック高調波やパワー・エレクトロニクス機器のスイッチングによる高周波雑音が、電磁環境を悪化させて通信品質の低下を引き起こします。最近、通信方式が、従来のアナログ変調による通信からディジタル変調方式へと、大きく変化しました。そのため、通信品質の評価法も、ディジタル通信に適したものへと変わりつつあります。電磁回路工学分野では、システム統合設計の観点から、無線通信システムと電気回路システムの干渉制御と評価法についても研究しています。

もう一つの例は、「分散型電源システム」です。従来の、電力会社を中心とする大規模集中発電・送電系に対して、新エネルギーシステムとして太陽光発電などの個別分散型の発電と、これを効果的に使用するための蓄電システムが運用され始めています。このような小規模な分散型電源が電力系統に組み込まれると、発電量の不安定性や負荷の変動のためにシステム全体の安定性に悪影響を及ぼし、電源品質の低下や大停電などを引き起こす可能性もあります。そのためには、機器間の協調連携運用が必要となり、パワー・エレクトロニクスと情報通信を連携した新しいエネルギー制御システムの開発が望まれます。電磁回路工学分野では、分散型電源システムにおける電力フローの制御法に関する研究を行っています。

この分野の研究を支える基礎理論である「電磁回路理論」については、 「研究テーマ」のページをご覧ください。

当研究室は2012年7月に、電気工学専攻の講座名・分野名の変更に伴い、従来の電気システム工学講座から電磁工学講座に移動し、研究室(分野)の名称を「電気回路網学」から「電磁回路工学」に変更しました。わずか2 文字の変更ですが、その指向するところは従来のものとはかなり異なります。新たな分野の開拓を目指しています。